1. コラム

フォーチュン500が集まる理由(上)

このコラムは日経ビジネスオンライン「鈴木友也の米国スポーツビジネス最前線」にて掲載されたものです


NASCARインターナショナルのロビー・ウェイス・マネージングディレクター(最高経営責任者)

 前々回前回と、NASCAR(全米ストックカー協会)の歴史やスポンサーシップモデルを用いた成長戦略、海外進出の概要について触れてきました。今回は、NASCARの国際戦略を担う「NASCARインターナショナル」のマネージングディレクター(最高経営責任者)、ロビー・ウェイス氏のインタビューをお届けします。

 ウェイス氏は、NASCARの副社長(テレビ放送担当)も兼務しており、テレビを通じてNASCARが“NFL(全米フットボールリーグ)に次ぐ第2の人気スポーツ”にまでいかに成長してきたのか、近年の海外進出の裏側にどのような計算があるのか、などについて詳しく話を聞くことができました。実はウェイス氏は、日本への留学経験や、NFLインターナショナル勤務時代に日本へのテレビ放映権販売業務の経験もある大変な知日家で、日本を「第2の故郷」と感じているとのことでした。

気軽さ、自由さがここかしこに見られる

 まずインタビューの前に、テキサス・モーター・スピードウェイで開催された「ネイションワイドシリーズ」第7戦「オライリー300」の模様をリポートします。

 この「ネイションワイドシリーズ」は、NASCAR乗用車部門では「スプリント・カップ」の下位に当たる、いわば2軍のレースです。それにもかかわらず、このシリーズには5万~10万の観客がコンスタントに訪れます。レース場をぐるりと1周して観客層を観察しましたが、成人男性が多いのかと思いきや、女性や子供の姿も非常に多く、年齢層も子供からお年寄りまで幅広く見受けられました。

 数年前までタバコブランドがカップスポンサーだったこともあってか、コンコースや観客席でも喫煙可能となっており、売店ではビールだけでなくカクテルなど豊富な酒類が販売されているのは、いかにも「酒が生み、タバコが育てた」NASCARのイメージそのものでした。しかし、タバコや酒を片手にレース観戦するコアなファンに交じって、女性や子供の姿も目立ち、コアファンとカジュアルファンがうまくブレンドされている印象を受けました。

 レース場の外では、数々のスポンサー企業がブースを開設しています。NASCARでは、観客のレース場への出入りは自由となっており(チケットの確認は行われます)、観戦の息抜きのためにファンが気軽に外に出歩くことができるのです。スポンサー企業は、こうした観客にレースとは違ったアトラクションを提供し、ビジネスにつなげています。

 こうした気軽さや自由は、入場する際にも感じます。レース場入口には、セキュリティーチェックポイントが設けられているのですが、多くの観客が自分でビールや食べ物をピクニック気分で持ち込んでおり、セキュリティーチェックといっても、とても“寛容”なものでした。原則、手ぶらで入場しなければならない米4大スポーツ(特にニューヨークは厳しい)とは大きな違いを感じます。これも、見方を変えれば、NASCARがファミリースポーツとして成長した1つの要因と言えるかもしれません。

 このように、NASCARのレース場を歩くだけで、「B2C(消費者向け取引)」や「B2B(企業間取引)」の観点から様々な試みが行われている様子をひしひしと感じることができました。こうしたNASCARの試みの裏には、どのような戦略が隠されているのでしょうか? ロビー・ウェイス氏の話を紹介しましょう。

スポンサーになる3つの理由

── まず、ウェイスさんのNASCARでの役割を教えてください。

ウェイス 私はNASCARで2つの部署を統括しています。1つは米国内外のテレビ放映権を管理する部署です。具体的には、米国内ならFOXやABCといった地上波テレビ局や、ESPNやTNTといったケーブル局との放映権になります。

 放映権料総額で年間6億ドル(約600億円)くらいになりますから、NASCARの中でもかなり大きなビジネスと言えます。テレビ露出はスポンサーシップの効果を高めるので、テレビはまさに“NASCARのエンジン”と言えるでしょう。

 もう1つの仕事は国際部で、ここでは海外のテレビ放映権だけでなく、スポンサーシップやライセンス業務など、米国外のマーケティング全般をこの部署が管理することになります。常に2枚の名刺を持ち歩いており、業務によって使い分けています。

── NASCARのこれまでの成長の秘訣や、国際戦略などについてうかがいます。まず、NASCARの最大の特徴として、フォーチュン500に入るスポンサーが、他のプロスポーツより多いことが1つです。こうした大企業のスポンサーは、NASCARに何を求めているのですか。

ウェイス 企業がNASCARのスポンサーになる理由は、3つに大別できます。第1に、ブランディングです。これは、レノボのような新興企業がそのブランド認知を上げたい場合や、バドワイザーやコカ・コーラのように、既に確立されたブランドを持っている会社が、そのブランド選好を高めたい場合の2通りがあります。

 第2に、B2Bビジネスの活性化です。他のスポンサー企業との接点ができることで、ビジネスが広がることを期待しているのです。

スポンサー同士が商談できる“たまり場”をつくる

── 「B2Bカウンシル」のことですね。

ウェイス そうです。よく社長同士がゴルフをして商談をまとめるなんてことがありますが、NASCARのガレージで同じようなことができるというイメージです。例えば、B2Bカウンシルを通じて、コカ・コーラはホーム・デポの店舗に合計5万台の販売機を置くことができるようになりました。こうしたクロスプロモーションを、多くのスポンサーが実現しています。

 第3に、社内の士気向上です。例えば、宅配サービス大手のUPSには40万人もの社員がいますが、ここまで社員が多いと、そのモチベーションを保つのも簡単ではありません。NASCARのスポンサーとなって、報奨プログラムでレース観戦などの機会を提供すれば、社員が誇りに思え、一体感を感じることができるようになるのです。

── 米国にはNASCAR以外にも多くのスポーツがあります。その中でなぜNASCARが選ばれるのでしょうか。

ウェイス まず、ブランドに対する強い忠誠心を持った顧客がいることです。NASCARファンは、スポンサー企業の製品やサービスへの購買意欲が非常に高いのですが、これは他のスポーツではあまり見られません。スポーツ自体ではなく、ファンが強みという点はユニークかもしれません。

ホームチームの概念がないことで、効果を一定に保つ

 次に、「ホームチーム」という概念がないことです。どのレースでも、観客は同時に全チームを目にするわけですから、レースごとのスポンサーシップ効果の差がないのです。チームスポーツなら、人気チームとそうでないチームがありますから、スポンサーするチームによって効果は違ってきます。言い方を変えれば、NASCARでは、どのチームもホームチームとも言えるかもしれません。

 第3に、公式シーズンが10カ月(2~11月)と長いことです。消費財メーカーや小売業などにとっては、季節によってプロモーション上、カギとなる日があります。

 例えば、2月のバレンタインデーに始まり、5月の母の日や6月の父の日、9月の新入生フェア、11月の感謝祭などです。シーズンが長いことで、こうしたカギとなる日をより多くカバーできるので、スポンサー企業とのプロモーションに効果的に活用することができるのです。NFLは秋にはめっぽう強いですが、春に弱く、MLB(メジャーリーグ)も(シーズンオフの)冬から春にかけて弱点が生まれます。

── なぜ、NASCARのファンは、ブランド忠誠度が高いのでしょうか。

ウェイス 個人的には、競技とスポンサー企業の関連性が高いからだと思います。NASCARでは、チームの存続にスポンサーの存在が不可欠なのです。例えば、私は昨晩、ロサンゼルスでNBA(全米プロバスケットボール協会)のロサンゼルス・レイカーズの試合を、ステイプルセンターで観ました。

 ステイプルセンターにはスポンサーが宣伝をしていたことは覚えているのですが、どこの会社だったのか全く思い出せません。これは、試合とスポンサー企業の関連性が高くないためだと思います。

 一方、NASCARでは、スポンサーがいるからこそ、レースが成り立っているということが浸透しています。だから、ファンがスポンサーの存在に感謝しています。そんな姿勢が、ユニークな関係を作り出しているのだと思います。

ファン基盤拡大のきっかけとなったテレビ放映権のリーグ独占

── NASCARは、かつては南部のローカルスポーツでしたが、今や全米にファンが7500万人もいると言われています。驚異的な成長を支えたのは何だと思いますか。

ウェイス 最も大きかったのは、テレビ放映権の交渉方法の変更です。実は、これはあまり知られていないかもしれませんが、2001年までNASCARではローカル放送だけでなく全国放送のテレビ放映権も、レースごとに各レース場が交渉していたのです。米国の4大メジャースポーツを見ても、ローカル放送の放映権をチームが交渉するリーグはありますが、全国放送までチームが交渉するようなリーグはありません。

 しかし、この交渉スタイルが問題を引き起こしていました。各レース場が個別に交渉を行うため、全国ネットワーク局からケーブルテレビ局、ローカル局など10ほどのテレビ局がNASCARの放送を行うようになりました。その結果、視聴者にはどの局がどの試合を放送するのかが分かりにくかったのです。今のように、インターネットがあまり発展していなかった当時は、テレビがコンテンツにアクセスできる唯一のメディアでしたから、この影響は致命的でした。

 そこで、2001年から全国放送の放映権は、リーグが独占的に交渉を行うように変更したのです。放送スケジュールに統一感を出すためです。例えば、今ではカップシリーズの最初の13戦はFOXが放送し、次の6戦をTNTがカバーし、残りをESPNが放送する形になっています。これなら、以前と比べて、ファンはいつどこの局にチャンネルを合わせればよいのか、分かりやすくなります。

 また、一定期間を同じ局に任せることで、テレビ局側のプロモーションもやりやすくなりました。FOXなら「アメリカン・アイドル」のような、その局の看板番組内でNASCARの予告宣伝をオンエアできるようになったのです。こうしたクロスプロモーションは、放送スケジュールに統一感がなければ効果はあまりありません。

テレビ中継より素晴らしい「レースビュー」

── NASCARはインターネットや携帯端末も非常に効果的に顧客開拓に利用しています。例えば、「レースビュー」(GPSによる遠隔測定法とCGを用いたバーチャルインターネットレース中継)は実際のテレビ中継より素晴らしいと思うことさえあります。

ウェイス テレビは一方的なメディアです。例えば、ゴルフ中継を見ても、1つの画面では、1人の選手しか追いかけることができません。しかし、必ずしも視聴者が見たい選手だとは限りません。

 インターネットを使えば、「レースビュー」のように、見たいドライバーのレースカーを見たいアングルから中継したり、速度やエンジン回転数などのマシン情報を確認したり、ピットとの無線通話を聞くといったことが可能となります。そして、こうした新たなテクノロジーのアーリーアダプター(早期適用者)が、NASCARの新規顧客になったということは間違いないでしょう。

── 「レースビュー」はテレビゲームの感覚に似ているので、特に若い世代には受けるでしょう。反面、昔からNASCARを支えてきたコアファンが置き去りにされているのではないか、と指摘する人もいます。

ウェイス そんなことはないと思いますよ。ただ、過去5年くらい、米国のスポーツ界が大きな変革期を迎えたことは確かです。特に、インターネットなどのニューメディアの出現により、スポーツの消費方法が大きく変化し、スポーツ組織自身もその変化への対応を迫られています。

一部のファンを失うリスクを負っても、変化に対応する攻めが欠かせない

 多くのファンは変化にうまく対応していると思います。ただし、中にはその変化についていけないファンがいることは事実です。これは残念なことですが、避けては通れないことです。成長していくうえでは、一部のファンを失ってしまうリスクは負わなければなりません。

 スポーツ組織としては、両者のバランスをうまく取っていかなければなりませんが、仮にNASCARが“守り”に入っていたら、今のように15万人の観客の前でレースを行うことはなく、昔のように3万人の前でレースをするだけで満足していたかもしれません。

 このことは、スポーツだけでなく、一般のビジネスでも同様だと思います。例えば、トヨタがモデルチェンジをすることで、古いモデルに愛着を持っていた一部のコアユーザーを失うかもしれません。しかし、顧客の行動に常に注意を払い、顧客が離れていくようなら素早く修正するということを繰り返して進化していくことでしか、成長への道はないのです。

── スポーツ組織として、顧客であるファンがどのようにスポーツを消費していくのかを、常に追い続けなければならないということですね。

ウェイス スポーツを支えてくれているコアファンに敬意を払い、彼らを維持することに全力を尽くしますが、新たなファンの獲得・育成にも努める。この2つを両立させて成長していくことが、私たちの使命です。

日本にも縁がある

── ところでウェイスさんはこれまで、どのようなキャリアを歩まれてきたのですか。

ウェイス 高校生の時からテレビ番組の制作会社でアルバイトしていました。大学に入ってもこのアルバイトを続け、結局この会社には大学を卒業するまで8年間お世話になりました。

 大学時代は、一時、日本の大学にも留学したことがあったんですよ。その後、ABCに就職して、番組制作を続けました。アルペンスキー世界選手権では雫石(岩手県)に行きました。さらにNFLの「マンデーナイト・フットボール」も担当しました。

 その後、ABCを辞めてから、NFLジャパンで国際業務を担当し、さらにスポーツのインターネット中継を行う企業を経て、2001年からNASCARで働いています。

── 何かと日本には縁があったのですね。

ウェイス氏 僕にとって日本は「第2の故郷」なんです。親しい友人が何人もいますし、当時の仕事を通じて培ったネットワークが今も生きています。

(次回に続く)

【訂正】 当記事、1ページの上から2段落目文中「NFLジャパンでの勤務経験もある」とあるのは、「NFLインターナショナル勤務時代に日本へのテレビ放映権販売業務の経験もある」の、また2ページの上から5段落目の文中、「ホーム・デポの店舗に2000の販売機」とあるのは「ホーム・デポの店舗に5万台の販売機」の誤りでした。なお、文中は既に修正してあります。

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