1. コラム

フォーチュン500が集まる理由(下)

このコラムは日経ビジネスオンライン「鈴木友也の米国スポーツビジネス最前線」にて掲載されたものです


NASCARインターナショナルのロビー・ウェイス・マネージングディレクター(最高経営責任者)

 有名企業が次々とスポンサーに名乗りを上げるNASCAR。前回に続き、「NASCARインターナショナル」のマネージングディレクター(最高経営責任者)、ロビー・ウェイス氏にその秘密を聞きます。今回はその国際戦略に迫ります。果たして日本は、彼らの目にどう映っているのでしょうか。

 ── NASCARが海外マーケットを意識するようになったのはいつ頃ですか。

 ウェイス きっかけは、2001年にリーグが全国放送の放映権を独占的に交渉するようになったことです。それまでは、各レース場がそれぞれの全国放送のテレビ放映権も販売していたので、海外には全く目が向いていなかったのです。そのため、2001年までは米国外での露出は極めて限定されていました。

 ほかの米国プロスポーツの中には、1980年代初期から海外進出を進めているところもありますが、NASCARの国際戦略はまさにスタートしたばかりだと言えます。だからといって、焦ってはいませんよ。2年とか3年という短いスパンで成果を出そうとは考えていません。我々は、10年後を見据えた長期的な視野に立って、国際戦略を再構築していこうと考えています。

国際市場を評価するための3つの軸

 ── どのような市場への進出を検討していますか。

 ウェイス 当然、海外進出の前には、その国のマーケットを評価しなければなりません。結論から言うと、現在、可能性があるマーケットとして15カ国が挙げられます。日本もそのうちの1つで、非常に有望なマーケットだと考えています。

 ── 各国のマーケットを評価する基準があるのですか。

 ウェイス 評価の軸は3つあります。第1に、その国の人口ですね。5000万人を1つの目安に考えています。

 第2に、モータースポーツの文化が既にあって、それに対する理解が深く、歴史もあるような国ですね。たとえ人口が多くても、モータースポーツへの理解度が低ければ、ビジネスとして成功する可能性は低いでしょう。

 第3に、米国文化を受け入れる土壌があるかどうか、ということですね。例えば、ハリウッド映画が頻繁に公開されているような国は、こうした点をクリアしている可能性が高いと言えるでしょう。

 ── この3つの基準を満たす国は。

 ウェイス 既にNASCARが進出しているメキシコ、カナダに加えて、日本、ブラジル、英国、ドイツの6カ国です。これらは、3つの基準をすべてクリアしており、我々は「ティア1(第1層)マーケット」と位置づけています。

 面白いのは、この6カ国は自動車産業が非常に発達しているんです。恐らく、自動車を製造してきたことで、クルマへの情熱を育んできたのではないでしょうか。4つ目の評価基準として付け加えてもいいくらいです。

 もちろん、ほかにも有望なマーケットはあります。例えば、オーストラリアなどは、人口が2000万人ほどですが、既にモータースポーツが盛んで、米国文化に対する受容性も高いです。我々は、こうした国々を、「ティア2(第2層)マーケット」と位置づけています。

米国流を押しつけない

 ── 最近、中国を視察されたようですが。

 ウェイス 中国も大きな潜在力を持ったマーケットだと見ています。今まさに、人々の暮らしに自動車が入ってきています。日本の家庭でも、自動車が入ったことで生活様式が大きく変わりました。それと同じ変化が、中国でも起ころうとしています。自動車産業の勃興とともに、自動車の製造や販売、サービス、修理などの分野で多くの雇用が発生しています。

 こうした状況は、将来モータースポーツファンが育まれる土壌になります。今すぐに事業化できるマーケットとは言えないかもしれませんが、「ティア1マーケット」の中には高齢化が進展して人口が減少に転じている国もあります。そうした点も考慮して、長期的な視野で国際戦略を描いた場合、中国は有望なマーケットと評価できるでしょう。

── 国際戦略を進めるうえで、注意すべき点はありますか。

 ウェイス “NASCARウェイ”(米国で成功したNASCARの手法)を押しつけないことです。世界の国には、それぞれの特徴があります。ですから、我々はまず、各国でパートナーを探し、次にその地域に馴染んでいる方法でビジネスを展開していくことを考えます。

 例えば、NASCARは2007年からメキシコで「NASCARコロナシリーズ」(NASCAR Corona Series)を開始しましたが、実はその3年前からメキシコのパートナーと一緒にその前身となるストックカーレースを始めています。 

点ではなく面での展開に留意

 これは、メキシコ人ドライバーとメキシコのチームによる“100%メキシコ製レース”と言えます。NASCARを、そのまま輸出したわけではないのです。だから、開催も年1回の単発のイベントにはしませんでした。

 年間14レースをメキシコの主要都市で開催するシリーズ戦になっています。「メキシコのモータースポーツを支援したい」「メキシコのモータースポーツ文化の一員になりたい」というNASCARの強いメッセージを込めて開発したわけです。

 米スポーツリーグは、1980年代、90年代に海外で興行して、目新しさも手伝って注目されました。しかし、それは“点”としての興行であり、国際戦略としてはあまり有効なものではありませんでした。NASCARでは、できるだけ現地化したうえで、“面”として興行を行うように心がけています。今では、こうしたNASCARの現地化モデルを参考にするスポーツリーグも増えているようです。

 ── 先ほど触れられた「10年後を見据えた国際戦略」とは、どういうものですか。

 ウェイス NASCARは2007年からカナダに進出して、現在カナダに約500万人のNASCARファンがいると推計されています。これは、カナダの成人の4人に1人に当たる数字です。考えてみてください。数百万人の新たなファンが生まれるインパクトは凄まじいものです。レース場に出かけ、テレビで観戦し、NASCARグッズやスポンサー商品を購入する。

 そこで、10年かけて、カナダと同じように数百万単位の新規顧客を「ティア1マーケット」の国々で獲得することを目標にしています。

有名ブランドをたくさん抱える日本の強み

 ── 日本市場をどのように評価していますか。

 ウェイス 日本は既に「モータースポーツ大国」と言えるでしょうね。野球やゴルフも人気スポーツですが、F1やGTレースなどにも熱狂的なファンが多く詰めかけています。NASCARが参入するなら、新しいニッチマーケットを作り出す必要があるでしょう。日本国民すべての人を対象にする必要はなく、まずは熱狂的なレースファンの一部を取り込むことが大事でしょう。

 ── 日本では、1996年と97年に鈴鹿サーキットでNASCARのレースが開催されました。これは市場調査が狙いだったのでしょうか。

 ウェイス 確かに、90年代に鈴鹿でレースを行いましたが、正直に話しますと、戦略的に行われたものではありませんでした。海外でのイベントは、継続してメッセージを送り続けることが重要なのですが、鈴鹿のレースはサーカスの地方巡業みたいなものでした。単発の打ち上げ花火、とでも言いましょうか。

 そうなってしまったのは、当時の状況を考えれば、仕方ない面もあります。まだ日本ではNASCARのテレビ放映がなく、もちろんインターネットも普及していませんでした。NASCARも国際戦略を描けていなかったわけです。

 ── 今ではNASCARは日本にテレビ放映権を販売しています。トヨタ自動車7203がNASCARに参戦し、先月には「スプリント・カップ」で初勝利を手にしました。今後、日本市場ではどのようにビジネスを展開していく予定ですか。

 ウェイス 日本が魅力的なのは、数多くの有名な消費者ブランドがあることです。トヨタやソニー、パナソニック、コマツなど、世界に誇る消費者ブランドが存在します。そんな国はあまりありませんよ。メキシコの有名な消費者ブランドを挙げろと言われても、分かりませんよね。英国にしても、ジャガーくらいなものでしょう(笑)。

 日本のブランドの中には、既に米国でも大きな存在感を示しているものが多数ありますが、NASCARの中で同じような存在感を示している日系企業はまだ非常に限られます。我々は、ここにチャンスが眠っていると考えます。

 例えば、建築機械メーカーなら米キャタピラーがスポンサーとなっていますが、コマツ6301やクボタ6326はいません。工具メーカーなら、クラフツマンがスポンサーですが、マキタは参入していません。電化製品ではソニー6758は参加していますが、東芝6502はいませんし、自動車ならトヨタはいますが、ホンダ7267はいません。自動車カテゴリにこだわる必要もなく、ホンダなら発電機メーカーとして参加してもいいわけです。

日本型意思決定の特殊性がもたらす弊害

 ── 米国で存在感がある多くの日本企業が、いまだNASCARに参入していないのはなぜだと思いますか。

 ウェイス 日本企業の意思決定のプロセスは、特殊だと感じています。通常、グローバル企業では、各国の現地法人がそれぞれ意思決定を下します。例えば、マクドナルドの欧州法人や日本法人の意思決定は、北米法人とは全く別ですね。しかし、多くの日本企業(の米国法人)は、最後には東京本社にお伺いを立てなければならず、実質的には現地法人が決められないのです。

 日本での知名度が高くないNASCARにとって、これは致命的です。状況を変えるには、まず、多くの日本企業に我々の存在を知ってもらうことが必要です。そういう意味では、トヨタがレースに参入し、勝利を挙げることは大きな意味がありますね。

 ── 日本企業にとって、米国市場を攻略するうえで、NASCARは有力なツールだと。

 ウェイス 野球やゴルフよりも投資対効果は高いはずです。トヨタがその象徴でしょう。彼らは非常に戦略的なので、NASCARへの参入も一朝一夕に決定せず、じっくりと戦略を考えていました。

3種類のスポンサーシップを使い分けられる

 我々は、企業に様々な投資効果をもたらす「選択肢」を用意しています。「スポンサー」といっても3種類があります。1つはチーム(ドライバー)のスポンサー。2つ目はレース場のスポンサー。3つ目は、NASCARパートナーです。それぞれ、期待できる効果は異なります。

 もし企業が「特定の商品について、広くマーケットに浸透させたい」と考えるのであれば、チームのスポンサーになるのが効果的です。レースカーは、全米各地のサーキットで高い注目を浴びながら走ります。いわば、「走る広告塔」ですから。逆に、特定地域のマーケットを念頭に置いているのなら、レース場のスポンサーになる方がいいでしょう。

 企業がNASCARのスポンサーになる理由は、「ブランディング」「B2B(企業間取引)ビジネスの活性化」「社内の士気向上」という3つがあります。それぞれの企業の目的に応じて、3種類のスポンサーを使い分けてもらえばいいわけです。コカ・コーラのように、3種類の全スポンサーになっている企業もあります。

 まずは、日本企業が米国市場を攻略するツールとしてNASCARの投資対効果の高さを実感してもらうことが必要でしょう。そうすれば、NASCARが日本でのプレゼンス(存在感)を高め、次いで日本市場に本格参戦する突破口が開けます。

 ただし、本格参戦といっても、やはりNASCARのレースをそのまま輸出する形にはならないと思います。あくまで、「Made In Japan」のレースを作るサポートに徹します。日本のファンにとっても企業にとっても、より魅力的で参加しやすいスポーツを目指そうと考えています。 

【訂正】 当コラム前回記事1ページ1ページの上から2段落目文中「NFLジャパンでの勤務経験もある」とあるのは、「NFLインターナショナル勤務時代に日本へのテレビ放映権販売業務の経験もある」に、また2ページの上から5段落目の文中、「ホーム・デポの店舗に2000の販売機」とあるのは「ホーム・デポの店舗に5万台の販売機」の誤りでした。なお、文中は既に修正してあります。


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