1. コラム

ZOZO球団構想を球界改革の機会に

このコラムは日経ビジネスオンライン「鈴木友也の米国スポーツビジネス最前線」にて掲載されたものです

 今年7月、アパレル通販サイト「ZOZOタウン」を運営する株式会社ZOZOの前澤友作さんがツイッターを通じてプロ野球の球団経営への意欲を明らかにしたことを覚えている方も少なくないと思います。同氏は「プロ野球球団を持ちたいです。球団経営を通して、ファンや選手や地域の皆さまの笑顔を増やしたい。みんなで作り上げる参加型の野球球団にしたい」として、新球団への意見を広く募りました。

 これに刺激される形で、プロ野球の球団数を現在の12から16に増やす「16球団構想」がまた世間を賑わすことになりました。16球団構想は、2014年にも自民党の日本経済再生本部が作成した「日本再生ビジョン」の中で地域活性化の起爆剤として提案され、物議を醸した経緯があります。

 野球協約では新規球団は参入希望シーズン前年の11月30日までに実行委員会およびオーナー会議の承認を得る必要があるため、残念ながらZOZOの来季からの球界参入の可能性はなくなりました。とはいえ、将来的に16球団構想がまた注目される時が来るかもしれません。いい機会ですので、今回のコラムでは球団増設(エクスパンション)を行う前提として長期的視野からの球界発展のために整えておく必要のある施策を整理してみようと思います。

球団が倍増したMLB、変わらぬ日本プロ野球

 アメリカン・リーグとナショナル・リーグの合併により1901年に設立された米メジャーリーグ(MLB)は、その後約半世紀に渡り(1952年まで)新規参入も球団移転もない「16球団安定期」を過ごします。その後、6回のエクスパンションの実施により球団数を徐々に増やし、1998年に現行の30球団体制になりました。

 一方、日本のプロ野球(NPB)は、1957年に高橋ユニオンズが大映スターズ(現・千葉ロッテマリーンズ)に吸収合併されて以来、60年以上に渡り現行の12球団体制が維持されています。経済成長を取り込みながら野球マーケットを着実に拡大し、球団数を増やしていったMLBとはいささか対照的です。こうした背景もあり、日本でも球団数を増やすことで野球市場を拡大できるのではないかというのが、エクスパンション推進派の考えでしょう。

 ところで、人口約3億2570万人の米国の名目GDP(国内総生産)は19.5兆ドル(2017年)。一方、人口約1億2680万人の日本の名目GDPは4.9兆ドルですから、GDPでざっくり比較した場合、日本対米国は1:4の比率になっています。少々乱暴ですが、国力から考えると米国(MLB)30球団に対して日本(NPB)12球団というのは、むしろ球団数として多すぎると見ることもできます。

 しかし、米国には二軍に当たるトリプルA球団から、八軍に当たるルーキー球団まで7つの階層に260以上のマイナー球団が存在します。さらに、MLBと提携関係にない独立リーグが8つもあり、その傘下に60以上の球団が存在します。

 これに対して、日本では二軍は一軍と同じ12球団しかなく、独立リーグも女子を含めた4リーグに20球団しかありません。マイナーや独立リーグまで含めて俯瞰すると、日本にはまだ野球市場を拡大できる余地があるとも見ることができるかもしれません。

 球団数の観点からちょっとした思考実験をしてみました。皆さん、どのように感じられましたか? 日本球界では、もう少し球団を増やしても大丈夫そうにも見えますし、逆に赤字球団を増やすだけに終わるかもしれません。

 しかし、確実に言えることは、リーグ全体最適の視点を欠いた現在の日本球界の仕組みで今以上に球団数を増やせば、懐事情の苦しい球団ばかりが増えていくということです。なぜなら、大きな人口を抱える大都市は既存球団のフランチャイズとして取られており、新規参入球団の本拠地は相対的に商圏の小さな中小地方都市にならざるを得ないからです。

 別の言い方をすれば、共存共栄に資する発想や制度の導入なしに球団数だけでエクスパンションの実現可能性を語るのは片手落ちなのです。



球団増設で市場拡大は誤解

 先に、MLBは誕生後16球団体制が50年ほど続いた後、60年以上かけて球団を増やしてきた流れに触れました。日本でも、エクスパンション推進派の中にはこの事実を受けて、「MLBが市場拡大に成功したのは球団数を増やしたからだ」という見方があるようですが、これは誤解です。因果関係が逆なのです。

 実際は「球団数が増えたから市場(売上)が拡大した」のではなく、「市場(売上)が拡大したから球団を増やすことができた」のです。過去25年間でMLBはリーグ全体の売上を7倍以上に伸ばしていますが、この間の成長を分析すると最大の成長ドライバーはメディア収入(インターネット事業収入とテレビ放映権収入)であることが分かります。そして、球団数を増やす上で極めて重要な役割を果たすのが「収益分配制度」です。増大した収益を適切に球団に配分する収益分配制度があるからこそ、新規球団の参入が可能になるのです。

 これは、スモールマーケットに本拠地を置くMLB球団のP/L(損益計算書)を見れば一目瞭然です。熾烈な労使交渉があるため、MLB球団は財務情報を決して公開しませんが、過去に何度かリークされたことがあります。少々古い情報ですが、2008年のピッツバーグ・パイレーツの球団収入の内訳を見てみましょう。ピッツバーグ市の人口は約30万人で、日本で言えば秋田市や那覇市などと同じような規模の都市です。


ピッツバーグ・パイレーツの球団収入(2008年)

2008年のパイレーツの球団収入は1億4599万ドル。ピッツバーグという地方都市に本拠地を置くだけあって、その収入はMLB球団の中でも低く、常に30球団の中で下位4分の1に入っているイメージの球団です。

 ここで特筆すべきは、パイレーツが自力で稼いでいるのは総収入の52%に当たる約7600万ドルに過ぎず、残りの約7000万ドルは分配金で賄われているという事実です。グラフからも分かるように、MLBには「分配金(1)」(リーグ収入の分配)と、「分配金(2)」(球団収入の再分配)の2種類の収益分配制度が存在します。これにより経営努力では埋めがたい市場特性に依拠する格差(メディアマーケットの規模、大企業の数など)を是正し、戦力均衡を実現しようとしています。

 前者は良く知られた制度で、全国放送テレビ放映権収入やインターネット事業収入、ライセンス収入などのリーグ機構の収入が全球団に均等分配されます。グラフでは薄いピンク色の「分配金(1)」(3090万ドル)がこれに当たります。

 後者は複雑なメカニズムなためあまり正確に知られていませんが、高収入球団から低収入球団に収益を再分配する仕組みです。具体的には、球団収入の約33%を全球団がいったん拠出し、その総和を全球団に均等配分します。拠出は球団収入の多寡に比例し、配分は均等になることから、結果的に収入が多い球団から少ない球団に収益が再分配されることになります。グラフでは濃いピンク色の「分配金(2)」(3900万ドル)がこれに当たります。

 分配(1)は全球団が一律に受け取ることができるのに対し、分配金(2)は平均以下の球団しか受け取ることができない上、球団収入が低ければ低いほど分配額は多くなります。このように、MLBでは2つの収益分配制度を巧みに運用することによって、ピッツバーグのような人口数十万人の地方都市にある球団と、ニューヨークやロサンゼルスのような数百万人規模の人口を擁する大都市にフランチャイズを置く球団が健全な経営を行いながら伍して戦える土俵を整備しているのです。

 こうした収益分配制度によるサポートがなければ、エクスパンションで新規参入した球団は市場に起因する格差から長期に渡り下位を低迷し、最悪のケースでは経営破たんするリスクさえあるでしょう。


リーグ共存共栄をもたらす収益分配制度

 また、収益分配制度には隠されたもう一つの重要な機能があります。これは以前「リーグを挙げて“箱ものビジネス”をアップグレード ~MLBの成長戦略を支えた“共有サービス”の思想」でも解説しましたが、分配制度を活用して球団が新球場建設への投資を行いやすくするのです。具体的には、拠出金の算出においてスタジアム関連経費を球団収入から控除できるようにすることで、スタジアム改修・新設へのインセンティブとするのです。

 実際、MLBでは過去25年間に21の球団が新球場を手にしています。改修も含めると、ほとんど全ての球団がハードのアップグレードを行うことができたのですが、これは収益分配制度を通じた支援策の賜物と言えます。球場が新しくなれば、チケット単価は上がり、物販・協賛収入も増大します。


 こうして、MLBはリーグで稼いだメディア収入を適切に球団に分配する一方、球場新設へのインセンティブを付与することで球団経営の礎となるボールパークへの適切な投資を呼び込み、球界全体の収益性を高めることに成功したのです。こうしたリーグ全体最適の視点からの共存共栄の制度があって初めて、エクスパンションが可能になるわけです。


日本のプロ野球に欠けている共栄の思想

 ここまで読んで頂いてお分かりの様に、MLBをはじめとする米国メジャープロスポーツのビジネスは完全自由競争ではなく、むしろリソースを適切に管理・再配分することで戦力均衡を実現させる護送船団型モデルです。これは、昇降格制度を持たず、自リーグの外に世界を想定しない「閉鎖型モデル」の特徴ですが、要は会員制の互助組織なのです(閉鎖型・開放型モデルの違いについては、FIFAコンサルタントの杉原海太さんが非常に分かりやすいコラムを書かれているので、そちらをご覧下さい)。

 エクスパンション(互助会員を増やすこと)とは、閉鎖型モデルを採用するスポーツ特有の考え方で、開放型スポーツには見られません。なぜなら、開放型の場合は階層の一番下のリーグに参入して勝ち上がってこないといけないからです。サッカー日本代表の岡田元監督が設立したFC今治も地域リーグからの参入でした。

 MLBで最も新しい1998年のエクスパンションでは、アリゾナ・ダイヤモンドバックスとタンパベイ・デビルレイズの2球団が新設されましたが、新規参入にあたり両球団はそれぞれ1億3000万ドルの加盟料を支払っています。なぜここまで加盟料が高額なのかというと、参入すれば収益分配制度を通じて多額の分配金が支払われる上(新規参入球団にとって、当面これが事実上の生命維持装置になる)、既存球団から選手を配分するエクスパンションドラフトなどの支援策を受けることができるためです。つまり、加盟料は互助制度への対価(入会費)なのです。

 翻って、NPBにはこうした戦力均衡のための制度が未整備です。2004年に起こった球界再編の際、NPBは新球団に60億円の加盟料を要求しましたが、これに公正取引委員会から独禁法違反の疑いが指摘され、結果的に選手会との交渉で加盟料が撤廃され、現行の「預り保証金制度」(保証金として25億円を預け入れ、10年後に返還)ができた経緯があります。これは、戦力均衡の視点から新球団への支援策に乏しいNPBではMLBのような高額な加盟料を支払う合理的な理由がなかったためです。

 ZOZOの球界参入騒動で再び脚光を浴びたプロ野球16球団構想ですが、もし本気で球団数を増やすのであれば、収益分配制度やサラリーキャップなど、リーグ全体の共存共栄を視野に入れた制度の導入を検討するいい機会でしょう。第一巡をくじで決める現行のドラフト制度も、厳密には戦力均衡に寄与しているとは言えず、改善の余地があると考えられます。

 スモールマーケットに本拠地を置く球団が増えれば、収益力の格差に伴う戦力の不均衡は確実に広がります。エクスパンション(球団増設)と言う米国プロスポーツを本家とする「閉鎖型モデル」の手法を真似するなら、その本質である戦力均衡の思想も併せて導入しないと、いたずらに不採算球団を増やし、リーグ経営を不安定化させるだけです。

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